新時代の農漁業、そして観光
◆宮崎・鹿児島視察報告◆
《日 程》
2004年5月20日、21日《参加者》
《概 要》
5月19日に東京町村議員会館で開かれた議員研修会に参加した翌日から、上記8名で九州宮崎・鹿児島に赴き、新しいコンセプトで取り組まれている農漁業、観光業の4事業体を視察しました。以下はその事業体ごとの視察内容です。
(1)宮崎県宮崎市・いきいき宮崎のさかなブランド確立推進協議会
所在地:宮崎県宮崎市港2−6
いきいき宮崎のさかなブランド確立推進協議会は、宮崎県、漁業関係団体、漁協、おさかな普及協議会連合会など、宮崎県の水産業に携わる機関等をメンバーとする組織で、同県の水産物の品質向上や流通の改善等を通じて本県水産物の知名度アップと漁家所得の向上を目指して平成8年に設立されました。
日向灘に面して長い海岸線を有する宮崎県は、カツオやトビウオなど八丈とも競合する漁業の盛んな県で、カンパチの養殖も行われ、またウナギやヤマメなどの川魚
も生産されています。そこで、これらの水産物の販路拡大や知名度アップを図るため、県内・外で各種商談会、物産展を実施するとともに、新たな商品開発などを行うことを目的としてこの事業が始められました。漁協の販売担当者を対象とした流通研修会を開催したり宮崎のさかなをPRするパンフの作成、配布を行い、さらに県産水産物の消費拡大を図るため、県民を対象とした県の魚を紹介するTV広報や料理講習会の実施など、さまざまな活動を展開している、ということです。
販売戦略の基本的考え方として、
1.産地体制づくり
○水産物の安定供給
○水産物の高品質化・規格化(上図のラベルを貼ってブランド商品を明示する)
○生産者への意識啓発
2.流通販売体制づくり
○市場の多面的機能の発揮
○地産地消の推進
○多様な販売体制づくり
3.県産水産物のPR体制づくり
○宮崎特産品の創出
○宮崎ブランドの確立
○消費者ニーズへの対応
の3点を軸にして県産物の知名度アップと有利販売を実現しようというものです。
近年八丈島の漁業は、漁獲高の減少、漁家の低迷などで長く低迷していますが、昨秋東京都が、伊豆七島の各島で漁獲物のブランド化を実現し漁業振興を図るとの計画を発表しました。今回の視察は、この政策の具体的な内容をつかむための手がかりとして、大い参考になるものでした。
(2)宮崎県東諸県郡綾町役場・照葉樹林文化館
所在地:宮崎県東諸県郡綾町
綾町は、宮崎県のほぼ中央部で、宮崎市の北西約20kmの位置にあり、照葉樹の自然林が広大な面積で残り、日本の自然百選・森林浴の森百選・水源の森百選にも選定されています。また、農業面では、食の安全性を重視した有機農業に町ぐるみで取り組み有名になっている農業の町でもあります。
わが国で最大の面積を誇る「綾の照葉樹林」の中核をなす約1,700ヘクタールは、前町長郷田實氏が先頭に立ち、町民の力を結集して国の伐採計画に抗して残されることになった森なのだそうです。そこにはシイ類、カシ類、タブノキ、イスノキなどの林と多様な植物が生育し、動物も希少種のクマタカ、イヌワシをはじめ、ニホンカモシカ、サル、イノシシ、ムササビ、ヤマネなど、鳥類ではアカショウビン、サンコウチョウ、フクロウ、オオルリ、オシドリ、ヤマセミなど多種類にわたります。そして綾南川の大森岳南東稜に連続する樹林を対岸から立体的に眺望でき、人々に感動と安らぎを与えるすばらしい景観が広がります。とくに
3月から5月にかけての照葉樹の開花期は「綾の照葉樹林」の秀逸の美観で、年間150万人の観光客が訪れるといわれます。
自然環境を町を挙げて守ってきたこの綾町が、照葉樹林とともに誇るのが自然生態系農業です。1988年に全国で初めて「自然生態系農業推進に関する条例」を制定しました。これにもとづき実践拠点として行政と住民が一体となった「有機農業開発センター」を設置し、必要な施策を体系的に展開しています。
化学肥料や化学農薬を排除した土づくりを推し進めて安全で栄養分に富んだ新鮮な野菜を生産し、その品質を認証システムで保証された商品は、販路についてもIT技術の活用や、地産地消への取り組みが行われるなど、八丈町が参考にすべき項目が数多く見られました。とりわけ、この官民一体の推進組織を強力にリードしてきた行政の存在感が強く印象に残りました。
(写真
上は照葉樹林帯の本庄川に架る大吊橋からの眺め、写真下は地場産野菜を販売する「本物センター」)
(3)鹿児島県鹿屋市東町・ピノキオ観光農園
所在地:鹿児島県鹿屋市東町
鹿児島県の大隅半島中域に位置する鹿屋(かのや)市。そこに、年間を通してイチゴ、ミニトマト、メロン、スイカなど季節の野菜や果物を訪れた観光客が収穫できるピノキオ観光農園があります。2ヘクタールある農園の半分
1ヘクタールがパイプハウスで、そのうちイチゴのパイプハウスが20アールを占めているとのことです。私たちが訪れたときはちょうどイチゴの収穫期が終わって一段落したところのようでした。
そのパイプハウスは八丈の強風にも耐えられるような強度の高い構造になっていることも注目されました。さらに興味を引いたのは、イチゴを植える株床が腰の高さにつくられ、立ったままで収穫できるように工夫されていることです。しかも、車いすに乗ったままでも入園できるよう
株床の間隔が広く開けてあります(写真下)。そのため、障害を持った方も大勢訪れ、大変喜ばれていると、代表の鮫島新一さんが説明してくれました。もちろん収穫した作物は買い上げて持ち帰ることができ、全国発送も行っているそうです。
八丈島でもこの4月から中之郷に農産物の即売所ができてなかなかの人気のようですが、この観光農園のように収穫を体験できる施設も検討してみる価値はありそうです。もしかしたら、収穫だけでなく、その前の畑作りから野菜や果物の肥培管理までを体験できる仕組みも大いに可能性があるのではないでしょうか。特に週休2日制が浸透した現在、週末をつかって農作業を楽しみたいと思う方々も少なくないかも知れません。
(4)鹿児島県鹿屋市古江町・鹿屋市漁業協同組合
所在地:鹿児島県鹿屋市古江町
ピノキオ観光農園と同じく鹿屋市にある鹿屋市漁業協同組合は、桜島を遠望できる錦江湾(きんこうわん)沿いの中央部に事務所があります。水揚げの98%をカンパチを中心とした魚類養殖業が占めているとのことで、今回は、船を出して養殖の現場を見せていただいた後、組合事務所でこのカンパチ養殖についての詳しい説明を受けました。
八丈島でも小規模とはいえ神湊の湾内でシマアジを養殖していますが、昨年9月の15号台風で全滅に近い被害にあいました。しかし、この錦江湾では台風期にも波浪による被害はほとんどないとのことで、気象条件で八丈を圧倒する優位性があります。この静謐な湾内は漁業従事者に安全な作業を提供している点でも、八丈島とは比較にならない好条件を保っているといえるでしょう。
漁協事務所前から漁船に乗せてもらって、いけすが所狭しと並んでいる養殖現場を周回して見て来ました。しかし、海水の透明度が悪くて魚影は確認できません。これはむしろ、内湾での漁業には外洋から新鮮な海水が流入しにくい問題がある
ことを感じさせます。
この漁協での養殖事業はすでに40年に及ぶ、日本での同業界の草分け的存在ということです。経営体数(生産者)は現在 31業者となっており、新規参入が制限されているそうですが、現在は他の地域との競合で、当初ほどの高い収益が望めなくなっているとの説明がありました。確かに、その後錦江湾岸を北に向かっていくと、湾内一帯に養殖いけすが延々と浮かび、その生産量のすさまじさが容易に想像されました。経営環境が最近厳しくなっているとの説明を受けて、わたしは、漁業者の平均年収を質問したのですが、組合参事の永田秋三氏には口を濁され、これはきっと相当な高収入なんだろうなー、と感じました。
八丈島でここと同じような養殖漁業を試みても、とても競争にならないことを痛感しました。しかし、養殖漁業は、えさ代が売り上げの約半分を占めることはともかくとして、海水がよどみがちの湾内に設置されたいけすの中で、大量の魚を密集して育てるためには病気の対策も怠るわけにはいかないようです。だから、この間期待を集めている浮き魚礁で、天然の健康な魚の漁獲量を上げていくことに大いに望みを託したいと
思います。
(写真は錦江湾に並ぶ養殖いけす群。背景には桜島が見える)
2004年5月31日 (小宮山たけし記)